
北欧デザイン出張日記−フリッツ・ハンセン(FRITZ HANSEN)ショールーム見学編−
vanillaのニイツマです。
6月15日〜20日で訪れたデンマークはコペンハーゲン。社長とニイツマの二人での海外出張の様子をご紹介していきます。今回のブログではフリッツ・ハンセン(FRITZ HANSEN)について、ショールーム見学と本社見学の様子をお伝えしていきますね。
海外出張の目的となった、「3days of design」についてはこちらのブログもご覧ください。
旧市街地に佇むショールーム
フリッツ・ハンセンのショールームは、コペンハーゲンの中でも旧市街地にあたるストロイエ(Strøget)にあります。かつてフリッツ・ハンセンの工房があったクリスチャンハウンからもメトロで一駅という場所で、ストロイエ通りは世界で初めて歩行者天国が開かれた通りでもあります。

全長1kmほどの通りには、HAYやロイヤル・コペンハーゲン、ジョージ・ジェンセンなど日本でも名前を聞いたことがある北欧ブランドのショップや高級ブティック、カフェなどが立ち並び、常に人で賑わうショッピングストリート。

ショールームやデザインスポットも多く点在するので、3days of designの期間中は特に賑わいが見られ、ニイツマも時間が許せばショッピングを楽しみたかったです。(この通り沿いにユニクロもあるのですが、現地でしか買えないコラボTシャツを買うか迷いました笑)

そして賑わうメインストリートから1本裏手の路地へ。3days of designの会期中でなければ静かなエリアなのかな?と想像してしまう通りには歴史的建造物が多く、騒がしすぎずそれでいて街の鼓動が感じられる絶妙なロケーション。そんな一角にフリッツ・ハンセンのショールームはあります。

通りから少し奥まった場所にある建物は、元々は王立郵便局として使われていた歴史を持つ趣ある佇まい。現代のデザインを発信する空間でありながら、過去の時間も静かに息づいているような、特別な雰囲気を感じさせます。
フリッツ・ハンセンを体感できる場所
2016年にこの場所でオープンしたフリッツ・ハンセンのショールームは、クラシカルな外観と広々とした高天井の内部空間で、新築の建築では表現できない、時間が丁寧に蓄積されているかのような深みを感じさせます。

約270㎡という広さで、明るく居心地の良い北欧らしい雰囲気が漂う白い壁と、幅広で贅沢さを感じさせるオーク材の床で仕上げられ、フリッツ・ハンセンのコレクションの美しさが引き立つ空間でした。


そしてこのショールームは3days of designにあわせて、わずか3週間という短期間でリノベーションを実施したそう。
テーマは「SHAPING LASTING DESIGN(シェイピング・ラスティング・デザイン)」で、創業から153年にわたり北欧のインテリアシーンをリードしてきた、フリッツ・ハンセンの”継承と進化”がこの空間に凝縮。新作アイテムだけでなく、馴染みあるアイテムも新しいマテリアルを纏って伝統と革新の融合が表現されていました。

リノベーションのタイミングで造作されたという壁面を埋めるアーカイブシェルフには、フリッツ・ハンセンのアイテムのパーツや新作の照明がディスプレイ。さらには引き出しを開けると、これまでのフリッツ・ハンセンの歴史の歩みがわかるアーカイブコレクションが展示されていました。



フリッツ・ハンセンでは椅子やテーブル、ソファだけでなく照明もラインナップされているので、ショールーム内も各所トータルコーディネートがされています。日本では馴染みがないファブリックのセレクトや色の併せ方があってとても新鮮なスタイリングでした。



また、2025年はセブンチェア70周年というアニバーサリーイヤーということもあり、各ショーウィンドウにもセブンチェアのアーカイブが美しく並び、”時代を超えて愛され続けたセブンチェアの軌跡”が表現されていました。



70周年記念については、vanillaでも好評販売中のセブンチェア「7:14 AM COLOUR EDITION」がその第一弾として登場しています。後半少しご紹介しますが、70周年を記念した企画は第二弾もありますので楽しみにお待ちください。

屋外へと続く、デザインの余白
ショールームの裏手には普段は駐車場として使われているスペースがありますが、今回の3days of designではSKAGERAK(スカゲラック)シリーズの屋外展示会場として生まれ変わっていました。

天然木のあたたかみと洗練されたフォルムが特徴のスカゲラックシリーズは、1976年にデンマークで創業した家具ブランド。デンマークの沿岸文化に着想を得て生まれたアウトドアファニチャーで、持続可能な木材(FSC認証など)を用いた製品づくりに早くから取り組んでいます。
元は独立したブランドとして親しまれてきましたが、2022年にフリッツ・ハンセンの傘下に入り、「SKAGERAK by FRITZ HANSEN」として生まれ変わりました。

今回のショールームでもアウトドア空間にふさわしい素材美はそのままに、フリッツ・ハンセンの空間美学と見事に融合。建物のレンガ壁も相まって、とても居心地の良いリラックス空間が演出されていました。会場ではポップアップでカフェがオープンしていてフリードリンクのサービスも。予約制のパーティーではDJも来ていて、お祭りの如く盛大な盛り上がりを見せました。

名作が生まれる瞬間
ショールーム内部に戻ります。ショールーム内部ではデモンストレーションも行われており、アルネ・ヤコブセンがデザインを手がけたエッグチェア、ポール・ケアホルムがデザインを手がけたPK25の制作風景を見ることができました。
ただ、タイミングが合わず、自分たちが行った時にはどちらもほぼ完成した状態でした…。(どちらもvanillaオンラインショップで取扱中です)



セブンチェアも板座とパディング仕様の違いがわかる構造見本もディスプレイされていて、見た目だけではない北欧デザインの名作と呼ばれる所以を垣間見ることができました。

気になる新作アイテム
ここからは今後販売予定がある新作コレクションをご紹介していきます。vanillaオンラインショップでも取り扱う予定ですので、楽しみにお待ちくださいね。
▼AFTER(アフター)
まず初めはマイケル・アナスタシアデスによるAFTER(アフター)シリーズで、ダイニングチェアとダイニングテーブルが発表されました。実はフリッツ・ハンセンとマイケル・アナスタシアデスのコラボレーションは今回が初めて。マイケル・アナスタシアデスはキプロス出身でロンドンを拠点にするデザイナーで、照明のデザインを多く手がけています。手がけるデザインには工業製品的なアプローチと職人の手仕事による技術を取り入れていて、今回の新作でもそれが表現されています。


「アフター」という名前には、それぞれの世代がそれまでの前の世代の遺産をどのように再解釈してきたかを讃える継承への敬意が込められています。歴史あるデンマーク家具全体の伝統を継承しつつ、より現代的なデザインを取り入れるためにフリッツ・ハンセンのアーカイブデザインも見直したそうです。アフターの展示脇にはアーカイブの椅子がディスプレイされていました。


ダイニングチェアのポイントはその背もたれ。厚みのある背もたれは一般的なスチーム曲げ木のようにも見えますが、実は木材を薄いシート状にスライスして元の順番で接着。それをプレスすることで曲線を作り出しています。一見すると無垢材に見えますが、実は同じ木材から層を重ねたラミネート構造という技術が詰まった仕上がりです。

ダイニングテーブルは十字にクロスさせた脚に、浮かぶように設置された天板の軽やかさがポイントです。基本的なディテールはダイニングチェアと揃えることで統一感を出していますが、エッジの仕上げに程よく丸みを持たせることで、テーブルとしての個性も共存させています。
フリッツ・ハンセンとしてはチェアとテーブルが同じコンセプトで発表されることは珍しいことのようで、単品でも素敵ですが一緒に使うことでより一体感が出て魅力が増していきそうです。


▼PK3&PK23
続いてはポール・ケアホルムコレクションから新作としてPK3が登場、PK23にもパディング仕様が追加になりました。PK3、PK23どちらもオリジナルデザインは1954年。元々フリッツ・ハンセンの社員だったポール・ケアホルムが退職して建築事務所に勤めていた時代に、デンマークの企業の食堂向けにデザインをしたのがきっかけですが、当時は採用されることはありませんでした。

そして現在、70年の時を経てフリッツ・ハンセンから商品化されました。PK3は構造としてはPK23と同じですが、全体の高さが75cmとダイニングチェアの中では低めに設計されています。(同じフリッツ・ハンセンのセブンチェアで高さ82cm)

デザイン自体が軽やかですが、高さが低いので圧迫感もなくダイニングからリビングにかけての視線の抜けの良さもありますね。5脚までスタッキングできる機能性も嬉しいポイント。
PK23は一足先に板座モデルの販売がスタートしていましたが、今回新たにパディングが仲間入りです。PK23のパディング仕様では、座面のエッジギリギリまでウレタンが張り込まれ、見た目では薄い厚みも実際に座るとしっかりとした座り心地が味わえます。プライウッドのシェルで程よくしなりもあり、幅広の座面は男性でもゆったりと寛げますね。

また、PK3とPK23はどちらも一見すると三次元の曲面に見えますが、実はシェル自体は二次元の曲面で、中央にスリッドを入れて角度をつけて接合することで立体感のあるシェルに仕上げています。まだ成型合板の技術か至らなかった時代に機能的で座りやすく効果的デザインを求めたケアホルムの意思がわかる構造です。

▼SOLAE(ソラエ)
続いてはセシリエ・マンツによるSOLAE(ソラエ)。フリッツ・ハンセンの照明では2つ目となるポータブルランプです。ちなみに初めてのポータブルランプはCLAM(クラム)ポータブルで、ショールームでも屋外などで多数使われていました。vanillaオンラインショップでも販売中です。


ソラエは幾何学的な楕円のベースと円形のシェードの組み合わせで、シンプルながらも上品さあるデザイン。「ソラエ」という名前はラテン語からきていて、温かく心地よい光は太陽光の輝きを連想させます。
フラットに見えるシェードは実は上下ともに膨らみがあります。シェードトップの丸みは柔らかい印象を、シェード下光源部分の丸みは少しでも光を広げるためのデザインで、セシリエ・マンツの繊細さと工夫が感じられる仕上がりです。

▼LET(レット)
続いてはセバスチャン・ヘルクナーによるLET(レット)。こちらは完全な新作というよりは、ベースに回転ベースの仕様が加わりました。元は4本脚のウッドベースやスチールベースのみの展開。オプションでオートリターン機能も選べるように。

▼Series7 TAILORED(セブンチェアテーラード)
最後にご紹介するのが、セブンチェア70周年を記念した限定品の第二弾として登場する、セブンチェアTAILORED(テーラード)です。フリッツ・ハンセンが受け継いできた品質と伝統へのこだわりを体現したモデルで、イタリアのレザー専門メーカーEnrico Pellizzoni(エンリコペリッツォーニ)社の協力のもと制作されました。

エンリコペリッツォーニ社は家具だけではなく、ハイエンドブランドバッグのエッジ加工なども得意としていて、繊細で高度な技術を持っています。今回のセブンチェアテーラードでは、セブンチェアのシルエットの美しさを損なうことなく、厚手のハーネスレザーがシェル全体を包み込んでいます。特徴的なエッジの加工とコントラストのきいたステッチのデザインは高級バッグを思わせるディテールで、イタリアの卓越したクラフトマンシップとデンマークの技術の結晶とも言える仕上がりです。

これまでのフリッツ・ハンセンで採用されたレザーとは違い硬めな質感。そして驚いたことに、今回の限定品のためにベースとなるシェルの成型合板の寸法を数mm小さく製造することで、レザーのエッジまで含めて通常のセブンチェアと同じ寸法・同じ曲線になるように仕上げているそうです。フリッツ・ハンセンのこだわりと技術が詰まった、まさにプレミアムなモデルといえます。

仕様としてはフルパディングで、従来のフルパディングのモデルと同じウレタンを採用していますが、セブンチェアの美しさを表現するために、ウレタンを圧縮して張り込むことでシャープな印象を生み出しています。また、ハーネスレザーには表面加工が施されていて、お手入れもしやすいのが嬉しいポイントです。
今回ご紹介した新作は今後国内でも販売される予定です。一部商品はキナルバニラでも展示を予定しておりますので、楽しみにお待ちください。
フリッツ・ハンセンのショールームの後、別日になりますがフリッツ・ハンセンの本社へ行けることに。実は当初は予定になく、現地で急遽決定(!!)した本社見学の様子はまた次回のブログでお伝えします。
