クロサワの「ちょっとお話長くなっても良いですか?」ニーチェアX編
vanilla郡山店のクロサワです。
今回より始まりました、クロサワによる新シリーズのブログ「少しお話長くなっても良いですか?」。どういうブログかと言いますと、僕が好きなものや気になったものをズラズラと書いていくというものです。わからないことは調べたり、目で見たりと皆さんと一緒に研究していくブログです。
今回シリーズ最初に選んだモノは、移転後初の展示となるニーチェアについてです。こちらのプロダクトもデザイナーズ家具がお好きな方ならご存知あるかと思います。僕も初めて実物を見る事と知識がまだ浅いので、今回はそんな有名なニーチェアの魅力と歴史に迫りつつ、勉強をしていきたいと思います。
時は1970年、新居猛さん(1920-2007年)により作られたニーチェア。50年経った今でも人気のある椅子として人々のライフスタイルに寄り添っています。
新居毅さんは剣道具を製造する家業を継ぐものの、戦後にGHQによって剣道が禁止された為に、仕方がなく木工学校へ入学、卒業後は家具の生産を始め、代表作ニーチェアを生み出すことになります。そんな新居毅さんには、座り心地を落とさず、とにかく安く、道具のように役立ってこそ椅子」という信念を元に「多くの人から愛されるカレーライスのような椅子づくり」を目指していたそうです。そして最終的にはニーチェアという素晴らしい椅子を作り上げました。
今ではニーチェアと一般的に呼ばれてはいますが、実はこのニーチェアという名前をつけた名付け親が存在します。その方は武蔵野美術大学名誉教授:島崎信さんです。名づけ親の島崎さんは良い椅子の条件として、座りやすい、丈夫、軽い、価格が妥当、フォルムが美しい、さら折りたたんだ時の美しさと安定感がること。ニーチェアはこの6つの条件をすべて兼ね備えた椅子と評価したそうです。
そんなニーチェアが現在どこで生産販売しているかというと、株式会社藤栄が正規ライセンス契約・監修のもと生産販売を行っています。昔からニーチェアをご存知の方ならお気づきかと思われますが、以前と製造元が変わっています。元々は徳島県にあったニーファニチアという工場で生産されていましたが、様々な理由で2013年に工場閉鎖となり、その後藤栄が引き継いだ流れとなります。しかしながらポンッと簡単に継承できたわけではなく、そこには様々なエピソードがありました。
徳島工場から製造を引き継ぐにあたり、まずオリジナル品の分解を行い、ステンレスの厚み、曲げの角度などを精密に計算することからはじめたそうです。実はニーチェアシリーズには各部品の仕様や寸法を示す設計図が残されていなかったのです。しかしそれがむしろ良かったのかもしれません。ここからは主に担当していた方のお話を元にしています。分解が進み構造の理解をするごとに、担当者たちは新居毅さんの創造性に衝撃を受けたそうです。「肘かけの溝にパイプがおさまる絶妙な角度。本体フレームの曲げ具合も、きっと何度も調整されたはず。何より1本のネジで、肘かけとパイプを固定するという発想は、私たちにはとても思い付きません」と語っていたそうです。確かにネジで肘掛け部分とシートを繋げるというのは中々凄い発想だと思います!またニーチェアは美意識の高さも兼ね備えている椅子です。一般的なパイプのは傷が付いても研磨やメッキ塗装を施すことで補修が可能らしいのですが、ニーチェアのパイプには過剰な光沢を避けてマットな仕上がりを採用していて、曲げ加工の際に金属同士が擦れて生じた小さな傷も修正が効かないそうです。直接触れないところではありますが、美しさを左右するパーツなんだそうです。パイプ一つとってもこれだけ情熱があると実物を見ているだけでそれが伝わりますよね!
構造のお次はシート素材についてです。僕が調べたところ、こちらもただならぬこだわりを感じてしまいました。ニーチェアはパイプに差し込んだ布地で身体を支える、言わばハンモックのような形状の椅子になっています。という事は最終的に身体にあたる大事なパーツです。構造が良くてもここが三流品では残念な椅子に感じてしまいますからね。そんな大事なシートを生産しているのが岡山県倉敷市のメーカー、丸進工業というところです。倉敷?デニム好きの方ならご存知ですよね!そんな同社ですが1888年に始まった織物屋を起源にすると130年を超える長い歴史がある老舗なんです。これまたすごい!
ニーチェアのシートに使用されているのが同社で生産されている帆布です。帆布とは名前の通り、帆船用に開発された布です。現在では軍用のアイテムや身近なところだと、スニーカーやベルトなど様々なものに使われている布となります。ただ、ニーチェアのシートを生産するにあたって一つ挑戦しなければならないことがあったそうです。それはオリジナル品のニーチェアを見た時に、使われていたシートがまるで一度洗ったかのような柔らかさと手触りを持つものだったそうです。そんな布を目指すため試行錯誤の末、体をしっかり支えるために厚手の生地を使用し、デニム生地に似た綾織を採用。さらに表面を引っ掻きながら細かな起毛を作り出すという手法。これにより目指していたシートを作り出すことが出来ました。そして最後に撥水加工です。やはりシートは身体が1番いるとのこと触れるものなので、柔らかさを残しつつ汚れが付きにくいシートに仕上げるため、本来であれば生地の染色と撥水加工を同時に行うところを、染色してから起毛させ、それを撥水加工するという3段階に分けて生産しているとのこと。何というこだわり!こうしてニーチェアのシートがやっと完成するんです。だからあんなに質感が良いわけですね。
これがニーチェア復刻の経緯というわけです。かなり情熱が全面に出ているお話でしたね!じゃあそんなニーチェア、実際どんな感じなんですかと思っている方もいるかと思いますので、続けて商品紹介に参りたいと思います。
まずニーチェアには2種類の形がありまして1つがニーチェアエックスというものです。これは郡山店の展示品と同じタイプで、脚裏が直線になっていて普通の椅子の役割ですね。もう1つがニーチェアエックスロッキングです。ロッキングなので脚の両端が滑らかなカーブを描いていて身体の重心でユラユラと揺れながら座れるタイプです。ここの2つもどちらが良いか悩みどころですよね。ちなみにオットマンタイプもあるので、合わせて座るとよりリラックス出来ますよ!そしてニーチェア最大の特徴、折り畳みが可能!シートを中心に肘掛を掴んで、持ち上げると簡単に折り畳みが出来ます。持ち運びも楽ちんです。使用しないときは収納もしておけます。椅子は絶対にここにないといけないという決まりはないので、様々な場所でガンガン使っていきましょう!
サイズになりますが、ニーチェアエックスが約幅61×奥行76.5×高さ86cm(座面の高さ35cm)折りたたみ時:約幅15×奥行76.5×高さ116cmとなっています。ニーチェアエックスロッキングが約幅61×奥行76×高さ92cm(座面の高さ43cm)折りたたみ時:約幅15×奥行76×高さ119cmとなっています。どちらも重さ約6.5kgとなっていてかなり軽量な椅子だというのが分かります。これなら女性でも持ち運びできますね!また座面から背もたれ最上部までの長さが75cmと長めの背もたれとなっていますので、万人の方がゆったりと座れるかと思います。
シートカラーはブルー、ホワイト、レンガ(朱色)、キャメル、グレーの5色、肘掛(木部)はナチュラルとダークブラウンの2色、こちらのシートカラーと木部の組合せが展開されています。お部屋に合わせてお選びいただけます。
ニーチェアの魅力はプロダクトそのもの、歴史、製造する過程が詰まっています。是非本物を手に入れてほしいです。最終的にはあなたのためになることだと思います。
という事で今回は以上となります。ブログの新シリーズいかがでしたでしょうか?通常のブログよりはニッチな内容になっているので興味がある方に読んでいただけると幸いです。ではまたお会いしましょう!