突然ですが皆様15年前は何をされていましたか?
学生だった方。社会人一年目。ちょうどお家を建てたばかり。人ぞれぞれの15年があると思いますが、15年の歳月は長いようであっという間だったりします。
では家具にとっての15年はどうでしょう。もう新品とは言えないけど、ヴィンテージと呼ぶには少し早いくらいでしょうか。大体の目安ですが100年以上経っているとアンティーク、20年前後から100年未満はヴィンテージと認識されることが多いようです。ただ、そういった呼ばれ方も大事かもしれませんが、一緒に15年という時間を過ごしたことが他には変えられない価値ですよね。
柳宗理とイームズ
今日ご紹介するのはvanillaスタッフがまさに15年以上寄り添った天童木工のバタフライスツールです。バタフライスツールはインテリアに詳しくない方でもそのデザインを一度見れば記憶に刻まれるはず。デザインをしたのは日本を代表する工業デザイナーの柳宗理です。インテリアだけでなく、キッチンツールなどの小物や公共事業などジャンルにとらわれずに、私たちの身の回りのプロダクトデザインを幅広く手がけています。何気なく目にしているあのデザインが実は柳デザインだった、なんてこともあると思いますので、興味がある方はぜひ調べてみてください。
前置きが長くなりましたが、天童木工のバタフライスツール。2枚の成形合板とネジ、真鍮のステーだけのシンプルな構造ですが、そのデザインはまるで蝶々のようで優雅さを感じさせます。デザインされたのは1956年であのイームズラウンジチェアと同じ年なんです。バタフライスツールはイームズのLCWが一つのルーツになっていたりするので、なんだか嬉しい共通点ですね!
そしてイームズ好きが多いvanillaスタッフ。イームズチェアの所有率の高さもさることながら、このバタフライスツールも所有しているスタッフが多いんです。今回は本当にたまたまですが、メープルとローズウッドが2脚ずつ比較的新しいものと15年以上使い込んだものが揃ったので、そのエイジングぶりをお見せしようと思いこのブログを更新してみました。ただ、どうやって紹介しようかとても迷ったのですが、せっかくなので購入したエピソードも少し交えていこうと思います。
名作を手にしたタイミング
まずは購入して日が浅いニイツマ所有のメープルと郡山店のクロサワ所有のローズウッドから。
ニイツマは去年の夏頃購入しましたので半年過ぎたくらいでしょうか。前々から欲しいものリストには入っていたのですが、日本を代表するデザインの1つであるバタフライスツールは定番の名作椅子であり憧れの一脚。普通に買うのも味気ないしと、何かのタイミングで買おうと思っていました。
そんな中当時所属していたvanilla郡山店が移転をし、昨年おかげさまで移転一周年を迎えることができました。コロナ禍の中本当に営業が続けられてよかったなぁと感じています。そしてそのお祝いと言いますか、頑張った自分へのご褒美として購入をしました。購入したのはメープル。昔はローズウッドがいいなぁと思っていましたが、この業界に入ってから自分の好みが変わりましたね。
実はクロサワも同じタイミングでローズウッドを購入したんですよね。上司と部下の関係性ではありますが、お互いによく頑張った!とそんな感じでモチベーションにもなりましたね。実際当時まだ入社したばかりのクロサワは本当によく頑張っていましたし。笑
そして買うきっかけも、もの選びと同じくらい大事だなぁと感じることができ、いい思い出になりました。
続いてクロサワのエピソード。
—–
数年前からデザイナーズ家具に本格的に興味を持ち始めていくつかの商品を購入してきました。その中にはイームズやボビーワゴンなどのミッドセンチュリーど真ん中のプロダクトが多いです。そんなプロダクトたちを見ていると日本のものが少ないことに気づきました。海外デザインと日本デザインが両方あるため、それの架け橋となるプロダクトを探していました。
そんな時に見つけたピッタリなデザイナーズ家具が柳宗理のバタフライスツールです。成形合板で美しい曲線が表現され、海外デザインと和デザインが調和されていてる、これしかない!と思いました。そしてなんと、僕の上司も丁度気になっていたという事で、タイミングを合わせて購入したという感じです!雑に畳んであるジーンズがバタフライスツールに置いてある風景を見ると最高です!
—–
続いてベテラン勢のムラカミ所有のメープルと郡山店のスギヤマ所有のローズウッド。ムラカミのメープルは約17年、スギヤマのローズウッドが約15年ほど経っています。
ムラカミのエピソードから。
—–
17年前なので妻に覚えているか聞きました。逆に覚えてないのか!? とチクリ。当時彼女だった妻を連れてvanillaに行った時、バタフライスツールを見せて語っていたのかもしれません。誕生日にサプライズでプレゼントされました。そうだった。
しばらくは窓辺に置いてシルエットや影を楽しんでいました。そのうち寝室の片隅に置かれ、今日履いていたデニムをパサっとかけたり、畳んだ洗濯ものを一時的に置いたり。日に当たることも少なくなりました。
杉山さんのバタフライスツールを見てもっとガシガシ使わなきゃと思い、今はリビングに置いてます。時々座ったり、読みかけの雑誌を置いたり。オットマン代わりに足を乗せたりすることも。
—–
最後にスギヤマのエピソードを。
—–
約15年前に7年半程働いたインテリアショップを結婚退職する際に、何か記念になるものをと購入したのがバタフライスツールです。
目黒通りにあったインテリアショップ”MEISTER”に柳宗理氏の直筆サインが入ったバタフライスツールが展示されていたのがとても印象的で素敵だなぁと思っていました。
当時の私にはサイン入りまでは手が出ませんでしたが、日本の成形合板技術の素晴らしさとその造形の美しさを最大限に表したこのスツールなら記念にぴったりだと思い通常品の購入に至りました。今考えればちょっと頑張ってサイン入りを手に入れておけば…と。
コレクションとして眺めるタイプではないのでスツールとして使うのはもちろんですが、踏み台として使ったり本を積み重ねて置いたりと様々な使い道をしてるので、とても便利な名作と言えますね。言い方は悪いですが、割と雑に使っているので無数の傷と経年の艶が出ているのに最近になって気付いた位なので、それ程生活に馴染んでいたのですね。
テレビ番組で、天童木工の社長さんが『どんなに無理難題を言われても絶対に出来ませんとは言いません。逆にそれを上回る付加価値を付けてクライアントに提案する事を心掛けています』と言っていました。なかなか言えないですよね。デザイナーと作り手の並々ならぬ苦労と信頼関係があってこその『ほんモノづくり』だと思います。
—–
いかがでしょうか?それぞれで名作スツールを手にしたきっかけ、エピソードがあっていいですよね。買った時はそう思っていなくとも、こうやって時間が経てばいい思い出話になりますし、その時間がまたこれからも大事に使っていこうと思わせてくれます。デニムかぶりのお話が聞けるとはさすがvanillaスタッフ。笑
ちなみにマニア情報ですが、天童木工のロゴマークも変化しています。座面裏のロゴマークやエンボス、ラベルって時代がわかりますし、マニア心をくすぐりますね〜。
美しさの成熟
それでは最後になりましたが、4つのバタフライスツールをじっくりと見比べていきましょう。メープルは日に日に色味が飴色のように濃くなることで熟成した美しさに、ローズウッドは次第に色味が抜け木目がわかるようになることで優しい美しさになっていきます。特にこの4つの中ではスギヤマのローズウッドを見たときは思わず声が出てしまいました。えっ、なにこの艶??濡れてる?とまで感じましたが(笑)、それだけ使い込んでいる証拠ですね。
でもこれこそ本当の美しさなんだと思います。柳宗理の父である柳宗悦といえば民藝運動が有名ですが、その中で「用の美」という言葉があります。バタフライスツールもただ見て楽しむだけでなく、実際の生活の中で使い込んでいくことでその実用性の中に美を見出していくことができます。むしろ椅子は実用品です。座ったり、踏み台にしたり、時にはテーブルとしても。誰もが見てわかるバタフライスツールの美しさに、自分が実際に使い込むことで用の美が加わり本来の美しさに。まさに成熟ですね。
インテリアを選ぶときはその時々の気持ちも大切ですが、10年20年先どうなっていくかを考えながら選ぶのも楽しみの一つだと思います。ぜひ長く使えるインテリアを揃えていきましょう。
この記事に登場した商品